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千歳烏山「RAGTIME」にて (2009/01/23)

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始まらない物語:1

2012/12/08 18:36

 私鉄の、各駅停車しか止まらない駅につき、改札を出て、チェーン居酒屋やアジア料理店やインド料理店の呼び込みの間をすり抜けて、商店街の中の奥に入っていく。夕方の混雑するスーパーマーケットの前を通って、一つ目のT字路を曲がり二つ目のT字路も曲がった花屋の隣に、ローソクのともし火のような、電球色のカウンターだけのお店がある。そこが「BARESCO」である。この名前はバリスタから採っているのだが、はじめはコーヒーを主体に出すお店をやりたかったとのことだけれど、どんどん常連化していった客のほとんどが酒飲みであったため、スタンディング・バーとして定着してしまった。
 ちょうど今は季節が冬なので、暖房の空気が逃げないようお店の入口には透明のビニールシートがかけてある。このお店にはドアが無い。
 広さは3坪。本当にカウンターだけのお店で、L字型(正確にはLを左右反転させた形をしている)に収まる人数は多くて10人ぐらいかもしれない。ただし10人というのはパンパンの状態で、常連客としては6人ぐらいが余裕があって嬉しい。
 全体は木と漆喰の落ち着いた雰囲気で、オーナーが自分で壁に穴を開けてつけたステンドグラスがある。先のとおりドアが無いので店内から外を眺めれば、家路を歩く男性や買い物帰りの主婦が歩くのが見える。
 この時間にお店に訪れると、まだ開店すぐである。働くメンバーはその日によって違うが、オーナーは人物を見て決めているようで、概ね固定している。隣駅に二号店があるので、そことの兼ね合いもある。ただし二号店の方がずっと広い。今日は―さんだった。
 カウンターに着き、財布から二千円ほど出し、―さんが気がつくのを待つ。開店すぐなので、厨房で仕込みの準備をしたり、カウンター下に潜ってビール樽の交換をしたり、白ワインを冷蔵庫に補充していたりする。やがて顔を上げ、客に気がつくと驚いた顔をして「いらっしゃいませ」と元気な声で挨拶をしてくれる。ややあわてた感じでカップと灰皿を客の前に差出し、こちらは先の二千円をカップの中に入れる。そして「何にされますか?」と「ビールください」のどちらが早いか遅いかそのどちらともなく、グラスにビールが注がれる。
 「お待たせしました」とビールが目の前に置かれ、「ありがとうございます」と代金としてカップの中から千円札を取り五百円玉が代わりに入れられる。客がビールを飲むと「お疲れ様です」と声をかけてくれる。



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