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博物館、東南アジアのデザイン (2011/05 シンガポール, 9)

2011/05/18 21:12

何年か前、山梨の八ヶ岳山麓に旅行に行った際、サントリーの工場見学を予定に入れたところ、たいへん面白かったので、それ以来旅行には何かしらのテーマを持つことにしました。今回は、ほぼ初めての海外旅行であり、特に行きたいわけではなかったシンガポールですので、初めての国を知るということにテーマを求めました。史跡がそんなに多い国ではないですが、行ってみれば何か感じるものもあるだろうと、博物館はスケジュールの初めに行くことにしていました。


シンガポール国立博物館。国で一番古い建物。1849 年竣工。

5/2 はメーデーで祝日だったため、すべての展示物が無料で公開される特別日でした。チケット売り場がわからないから、博物館のパンフレット等がドコにあるのかわからなかったりして。
また、順路もよくわからず、順路上メインになるエスカレーターがメンテナンス中で使えず、最も基本的な展示は最後にまわるという体たらくで。最初しばらくは特別展の現代シンガポール美術を見ていたりと (暗ーい部屋に人形が一個だけポツンと置いてあって背後に街の映像がダラダラと映されるだけだったり)。

とはいいながらも、やはり感じるものがありました。トラウマになりそうなぐらい。
- シンガポールはマレー半島の先端にあり、マラッカ海峡に面してる。海のシルクロードの交易拠点であり、船でヨーロッパと東洋を行ったりきたりする際は必ず通る場所にある。
- 大航海時代になり、ヨーロッパ諸国の利権争いでもみくちゃ、ボロボロになる。その後 300 年ぐらい海賊やローカルな商人がたむろする小港となる。
- 1800 年代の初めに英国、東インド会社のトーマス・ラッフルズが上陸しこの港を英国権益の自由港としてスタートさせる。
- ラッフルズは誰でもウェルカムの施政をする。
- 最も集まったのが華人、その次がマレー人、インド人。人口比率は 80:12:7:x ぐらい。この比率は今もほとんど変わらないらしい。

シンガポールという国がどういう国なのかは、この基本的な歴史の流れによるもので、要は貿易の拠点です。
おそらくアジア中の交易物がこの港に集まり、ヨーロッパへ運ばれていったのでしょう。拠点性についても今も特に変わりが無く、運輸業や金融業が盛んであり、実に様々な人種がシンガポールで見られます。例えば地下鉄のエスカレーターを上下する人を見てると、中華系を中心に鼻が丸い顔や色黒の東南アジア人らしい顔がいっぱいあって、そこにスカーフで頭を覆うイスラム系の女性がよく混じります。で、油断をしてるとグっと険しい顔をしたインド人が現れておおっと思った瞬間、シャツに半ズボン+サングラスをした白人がデカイおなかで家族と歩いていたり。あ、インド人についてはサリー着てる人もふつーにいます。


館内通路。ヨーロッパ風。


食に関する展示。


香辛料の香りをサンプルで嗅がしてくれる。これはナイスな展示方法だと思う。

シンガポールは建国が 1965 年なので、新しい国ですから、史跡があったとしても大して歴史がある国ではないと思います。しかしながら独自性があるとしたら、アジアの文化がそれはもうありとあらゆる形でガバガバと集まった結果であり、一見、サイケデリックでありながらも、目に入ってくる色彩や形状の種類があまりにも多すぎて、かえって統一性があるように見えてしまいます。
また、島国であり、国土が狭い点は日本と変わりが無いですが、日本が隣国とだいぶ海で離れてて、中で非常に閉鎖的に練りこまれた文化を持っているのに対し、シンガポールは隣のマレーシアと幅 2km ぐらいのジョホール水道という海峡で分けられているだけなので、それはもう入るにまかせるしかありません。欲さなくてもびゃんびゃん入ってくるので、それらがまるでミックス・ジュース、あるいは闇鍋のように混ぜられていくみたいな。


話はかわりますが、これはシンガポール航空のキャビン・アテンダントの方。制服が独特です。アジアン・エレガントとでも言うのでしょうか、ヨーロッパのアールヌーヴォーやゴシック、アメリカのアールデコとは違うデザインです。もちろん日本の着物や焼き物とも違います。


僕はこの手のテキスタイルのデザインがどこから来るのか、今回の旅行で感じ取ることができたと思っています。
例えばこの写真。

博物館の隣にある YMCA の建物の生垣なのですが、こういう見た目の生垣は日本でも幹線道路の中央分離帯や歩道脇に見られますが、この生垣がどんな植物で出来ているかというとこんな感じです。

なんという名前の花なのかは知りませんが、南国の花です。僕はこれを見てハッとしました。至極当たり前ではありますが、ここは南国なんだなと。生い茂る植物がすべて南国デザイン。日本だったらサツキが咲くところでしょう。

宿泊していたホテルの前の植物群。樹木がやっぱりジャングル仕様。

人に美しいものを贈る時、例えば "花を贈る" という基本的なアクションがありますよね。好きな人に花を贈る。愛する人に花を贈る。なんで花を贈るのか。花言葉が「呪い」みたいなブラックな花もなかにはありますが、美しいものを人に贈りたいという基本的な気持ちがあります。つまり人にとって美しく感じる物のひとつに花があるわけです。花は美しいと。
では、その花がどんな花なのか。これは必ず気候に左右されます。小さい子供が母に渡すつもりで野原で思わず摘んでしまうシロツメクサの花、酔っ払いが花見で勢いでやってしまう禁止事項(その時の花は桜だったりするわけですが)、東南アジアだと南国の花がデフォルトなわけです。その土地に住む人の "美しいもの" と感じる基準が南国デザインの花であるなら、民族衣装のテキスタイルも花の色や形状からの発想だったり、衣装全体もどことなく花の蕾のような感じになる。

美しいものをデザインしようとするとき、その場所の美しいものをスタート地点にしてデザインされる。その発想の仕方はどこの国でも同じだけれども、形状が違うのはその場所の気候・風土に左右される。今回訪れた東南アジアではその地域の花であると、僕は感じ取りました。東南アジアに惹かれるべき肝はここでしょう。


シンガポール動物園にて。
毎日 30 度ぐらいで湿気もとても高い。日本の真夏日みたいなのが毎日続いて、四季は無い。雨季と乾季はあるけれど、雨はスコール。植物は伸び放題。



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